今やゲームにあって当たり前の存在になっているチュートリアル。
ゲームを始めるとほとんどのタイトルでチュートリアルが始まりますが、「説明はいいから早く自分で操作させてくれ~」と思うプレイヤーは多いでしょう。チュートリアルが面倒くさいと、それだけでゲームをやめてしまうプレイヤーもいるかもしれません。
どうやったら良いチュートリアルが作れるのか悩む人も多いと思いますが、ゲームを作るときに、初めから説明が必要ないように意識しながら設計すると、チュートリアルは無くすことができます。
ゲームの面白さの本質はプレイヤー自身の体験にあるので、説明の仕方やチュートリアルの作り方を考えるのではなく、どうしたらプレイヤーに自然と学んでもらえるかを考えることに時間を割いたほうがゲームは面白くなります。
そういうことを隅から隅まで考えて丁寧に作られているのがポケモンです。実際には説明はたくさんあるのですが、プレイヤーが説明だと認識しないように設計されているのがミソ。
今回は、『ポケモンに学ぶ!説明が必要なくなるゲームデザイン』をまとめてみます。
目次
説明が必要なくなるテクニック
わかりやすいテーマを選ぶ
ゲームのテーマがわかりやすいと、ゲームの目的を簡単に理解できるので、説明が必要なくなります。
ポケモンにはモンスターを捕まえて仲間にする、というテーマがありますが、人間以外の存在との交流は永遠のロマンです。1996年以降は、ポケモンの発売を皮切りに、たまごっち、デジモン、ドラクエモンスターズと、仲間を捕まえたり育てて進化するようなテーマのコンテンツが次々にヒットしました。
人はとにかく何かを捕まえたり育てたりすることが大好きです。虫捕りやペットを飼うことと一緒です。しかも対象がかわいいモンスター、かっこいいモンスターとなれば、『仲間にして一緒に冒険したい!』と思ってしまいますよね。
ゲームを作るときに、たくさんの人のロマンを刺激するテーマを選ぶことは大事です。
作り手が作りたいものを作った結果、多くの人の欲求に刺さった、というほうがものづくりの順序としては健全ですが、説明を無くすテクニックという視点でまとめているので、テーマ選びが大事ということを書きました。
ドラクエ、FF、マリオのテーマである『誰かを救う』、『悪を討つ』ということも、昔から大衆になじみ深いテーマの一つです。
たくさんのゲームに採用されている仕様を使う
たくさんの仕様で採用されている仕様を使うと、プレイヤーが慣れ親しんだ感覚でプレイできるため、説明が不要になります。
本や看板に説明を仕込む
昔から、ゲームには看板や本棚がたくさんあります。そして、看板や本を調べると情報が読めます。看板や本棚に情報を仕込む手法は、ドラクエやFFなどファミコン自体から使われている手法で、これに慣れているユーザーは無意識に本棚や看板に吸い寄せられます。本を読めといわれなくても読んでしまうのです。だからそこに大事な情報を書いておけば、わざわざ説明しなくても、ユーザーが自分から学んでくれます。
ちなみに、看板や本棚を調べるということに親しみがないプレイヤーのために、トレーナーズスクールの先生に看板に大事な情報が書いてあるという情報が仕込まれています。
操作に独自仕様を入れない
自分が作ろうとしているゲームと同じジャンルがすでに広く楽しまれている場合、同じジャンルのゲームでもっとも一般的な操作や仕組みを持ってくるという方法を使うと、説明をする必要がなくなります。
十字キーで移動、Aボタンで決定、Bボタンでキャンセル、という操作方法なら、わざわざ説明されなくてもみんな知っています。スマホの場合もUIがあらかた確立されているので、既存のタイトルを参考にしながら慣れに合わせて作ることは出来ると思います。
ゲームプレイで起きるストレスの中で最もプレイヤーの心を折るのは操作の多さや難しさです。ポケモンと妖怪ウォッチの大きな違いは、ミニゲーム専用の操作があるかどうかです。ポケモンのアクションがすべてAボタンのインタラクトで行なわれるのに対して、妖怪ウォッチはミニゲームごとに専用の操作が用意されています。専用操作が多ければ多いほど、遊びが始まる前に説明を挟まなければなりません。
操作に独自性を出すのは、それが面白さの要である場合など、どうしても必要な場合に絞ったほうがよいです。
プレイヤーに気づかせるテクニック
有益なオブジェクトや情報は目につきやすくする
ポケモンでは、プレイヤーにとって有益な情報を持つものは目につきやすくなるように作られています。
オブジェクトを記号化する
ポケモンの象徴的なオブジェクトといえば今も昔も掲示板。いかにも「大事なこと書いてます」といわんばかりに紙が貼られているのでついつい調べてしまいます。
このように、オブジェクトの見た目を特徴的にしてプレイヤーの注意を惹きやすくすることを自分は『記号化』と呼んでいます。記号的なオブジェクトはプレイヤーの目につきやすいです。
こちらは初代の掲示板。同じように文字らしきものが書いてあります。
ちなみに、記号化は3D表現にすると難しくなります。特に、ほとんど実写のようなゲームの場合は、いかにも意味ありげな形や色をしたオブジェクトを配置すると悪目立ちして、リッチな表現の強みである没入感を阻害してしまいます。記号化が難しい3Dタイトルでは、UIを表示するなどしてそこに何かがあることに気づかせることが多く、画面内の表示物が多くなる傾向があります。
3Dだと記号化が難しくなるということは、新旧のニビシティの博物館のコハクで比較するとわかります。コハクはポケモンの化石で、これを入手するとプテラというポケモンを復元できるという結構大事なアイテムです。
こちらがピカブイ版のコハク。
周りに本棚や看板があり、色数も多いので、コハクが入ったケースも背景になじんでおり、特別感はあまり感じません。
そして、こちらが赤緑版のニビシティ博物館のコハク。
台座に乗った丸いオブジェクトがピカブイ版より目立って見えませんか?
ゲームボーイは色数が少なかったので、背景のなかにポツンと浮かぶコハクが目につきやすいですし、他の場所には配置されていない台座と丸いピカピカした記号が表示されているので、これが何か特別なものであることに多くのプレイヤーが気づきました。
「奥に何かありそうだけど、あの場所に行けない。どうしたら行けるんだろう…。」
というモヤモヤをプレイヤーに残す良い仕込みなのですが、ピカブイでは3Dになり記号化が難しくなったため、2Dよりコハクが目立たなくなりました。
3Dのゲームにポップアップを使った説明が多く、ドット表現のゲームにほとんど説明がないのは、記号化の使いやすさによるところも大きいので、記号化を使って説明を少なくしたい場合は、ゲーム全体のデザインを簡素にしておき、記号化しやすいようにしておくことも大事です。
ちなみに、ポケモンの掲示板にはもう一つ大事なポイントがあります。掲示板を調べたときの最初の一言に必ず、『おとくな けいじばん!』と書いてあることです。
毎回掲示板を読むたびに出てくるので、「掲示板を見ろ!!!!」といわんばかりの開発者のコメントが表示されるので、掲示板にはお得な情報が書かれていると刷り込まれます。だから、3回も掲示板に書いてあることを読めば、掲示板を自然と読みにいくようになります。
こういう一工夫は意外と思いつかないというか、作り手のセンスが光る部分だと思います。
オブジェクトを目につきやすい場所に置く
ポケモンの掲示板は、街の入り口や道路の途中など、エリアの切り替わりのタイミングで必ず目につくように配置されています。
マサラタウンから北へ進んだ一番道路の入り口に掲示板
トキワシティの入り口に掲示板
トキワシティから北に進んだ二番道路の入り口に掲示板
トキワのもりの入り口に掲示板
ニビシティの入り口に掲示板
このように、新しいエリアの入り口には絶対に掲示板があります。
ポケモンのマップは一本道なので、エリアの切り替わり地点は道幅が狭く作られています。そして、道幅を狭めたところにこのように掲示板を配置することで、すべてのプレイヤーに必ず掲示板を見てもらうことができます。
大事な情報は複数の場所にちりばめる
ゲームを進める上で特に重要な情報は、一か所ではなく複数の場所に仕込みます。例として、『モンスターボールはフレンドリィショップで買える』という超重要な情報をピックアップしてみます。
オーキド博士の研究所の本棚
トキワシティの入り口の掲示板
トキワシティのおじいさん
こんな感じで、全く同じ情報がいろんな場所で読めるようになっています。本棚、掲示板、人と、情報を得る対象が全部バラバラになっているのもポイントです。本棚はスルーするプレイヤーでも、人には興味を持って話しかけるかもしれません。
すべてきちんと調べているプレイヤーには大事な情報として何度も刷り込むことができます。フレンドリィショップがマサラタウンを出た後の目的地になっているのも、ショップの存在を知らせるための仕込みですね。
指示を出さずに小目的だけ伝える
ゲームの面白さはプレイヤー自身の体験にあるので、プレイヤーにあれこれ指示を出すと、ただのおつかいゲームになってしまいます。「自分でみつけた」、「自分の力でやり遂げた」という体験をしてもらうためには、具体的な指示を出さないことが大事です。
ただし、目的を伝えないと何をやってよいかわからなくなってしまうプレイヤーもいるので、『小目的だけ伝える』、『小目的を達成すると次にやるべきことがわかる』という落としどころを狙いましょう。
塩梅がなかなか難しいので、2つ例を出します。
ライバルは『オーキド博士を探しにいけ』とは言わない
ポケモン開始直後、主人公はライバルから、オーキド博士の研究所に来るように言われます。
言われたとおりに研究所に向かうと、博士がいないと言われます。
この流れから、プレイヤーはオーキド博士を探すことになります。
これ、はじめから研究所にオーキド博士を配置しておいてもゲームの進行上は全く問題ないのですが、オーキド博士を研究所に配置していないのは、『オーキド博士を探そう』とプレイヤーにひらめかせて草むらに向かわせることが目的だからです。
このように、プレイヤー自身の思い付きで次に進む行動を取らせるという仕込みがものすごく大事です。ライバルのセリフを見るとわかるとおり、オーキド博士がいないと言っているだけで、探せとは一言も口にしていません。
直接答えは出さないが、答えにたどり着くために必要なヒントだけ伝えて、そこから先はプレイヤーに自分で気づかせるという仕込みの連鎖で、ポケモンは面白くなっています。これはあくまで一例ですが、他にもたくさんそういう仕込みがあるので是非探してみてください。
オーキド博士は『ポケモンリーグのチャンピオンになれ』とは言わない
オーキド博士は『ポケモンリーグのチャンピオンになれ』とは言いません。ポケモンを遊んだことがある多くのプレイヤーは、ポケモンのゴールはチャンピオンになることだと認識していますが、図鑑の完成はプレイヤーの目標ではなくオーキド博士の夢です。
ではなぜ、プレイヤーの目標はポケモン図鑑の完成からチャンピオンリーグ制覇にすり替わったのでしょうか。
答えは、『ゲーム序盤からポケモンリーグの存在に気づけるように設計されているから』です。チャンピオンリーグの情報は序盤から色々なところにちらばっています。まず、オーキド博士のパソコンに届いているメールに『ポケモンリーグ』と『さいきょうのしてんのう』という単語が登場します。
『さいきょうの してんのう』という単語が全国の生まれたてトレーナーの負けず嫌い精神をくすぐりますね。次にチャンピオンリーグの話題が出てくるのはトキワシティのトレーナーズハウスのノート。ここにプレイヤーをがっつり誘導するテキストが登場します。
ポケモントレーナーであるプレイヤーの目標は、つよいトレーナー8人衆を倒してポケモンリーグのしてんのうを倒すことだと書かれています。この情報を見たプレイヤーは、自分の目標がポケモンリーグだと刷り込まれつつ、『もうれつに つよい してんのう』という単語に焚きつけられます。
このノートは見ないこともできますが、見ていなくても先に進むための条件にジムバッジが必要になるように設計されているので、自ずとジムリーダーへの挑戦がプレイヤーの目標になっていきます。やるべきことを直接指示されないから、ゲーム全体を通じてやらされている感じが全くありません。
ゲーム序盤に、トキワシティからチャンピオンリーグに寄り道できるのも、はじめのうちにプレイヤーに目的を刷り込んでおくためでしょう。
ここで門前払いされたプレイヤーは、ポケモンリーグに興味を持ち、打倒ジムリーダーに燃えはじめます。
主人公を指す単語が『ポケモントレーナー』という単語になっているのもポイントで、『あなた』とは言いません。だから、プレイヤーはポケモントレーナーはポケモンリーグを目指すものということを知り、自分もポケモンリーグを目指そうと思うようになります。
トキワシティのジムリーダーが不在なのは、チャンピオンリーグへの道順としてこの街に最後のジムがあるのが自然だからですが、ここに、『いつもいない謎のジムリーダー』という設定をかぶせると、プレイヤーの心にモヤモヤが残るポケモン七不思議のできあがりです。ゲームを進めてジムバッジがそろってくると、「そういえばあのジム、誰がリーダーなんだろう」とひらめいて、自発的に戻ってくる時がやってきます。
指示を出さずにプレイヤーを誘導する仕組み、おわかりいただけたでしょうか。この辺りからは、開発者のゲームというコンテンツに対する思想がひしひしと伝わってきます。プレイヤーにひらめかせることをとことん重視しています。
説明を説明と思わせないテクニック
説明を極力無くそうとしても、オリジナルの仕様はどうしても説明しなければならないことが出てきます。ポケモンの場合は以下のような仕様が当てはまります。
- ポケモンという存在
- ポケモンの捕まえ方
- バトルの遊び方
- ポケモンの回復方法
この辺りは現実にも他のゲームにも存在しない仕組みなので説明が必要で、ポケモンにも強制イベントが存在します。ですが、ポケモンの強制イベントは説明を受けているという印象が薄いです。理由は二つあります。
日常の出来事になじませる
ポケモンのすごいところは、説明を会話に入れ込みつつ、日常の出来事のように馴染ませているところです。ピカブイ版のゲーム冒頭のライバルとの会話を例にあげます。
ピカブイでは、ゲーム開始直後にライバルが「自分が送ったメールをチェックしろ」と言ってきます。これは、オブジェクトを調べることができるという説明を担っています。パソコンを見ろと言うのではなく、パソコンを映しつつ、メールを読めという日常的なやり取りに落とし込んだ言い回しなのがポイントです。
こちらは強制イベントではありませんが、お母さんから『オーキドはかせのところにいってらっしゃい』という目的を伝えられます。2~3ページでは、いかにも前の日にプレイヤーがお母さんに話したような言い回しで、プレイヤーが置かれている状況をさらっと説明していますが、こういう状況説明は地味に記憶に残ります。
プレイヤーが説明を受け入れやすい存在を作る
ポケモンで、プレイヤーにがっつり説明をしてくる存在は二人。オーキド博士とライバルです。
博士・オーソリティ
オーキド博士はオーソリティです。
オーソリティとは権威者のこと。ほとんどのこどもは意味がわからないけど、横文字だし、『そんけい』と書かれているのでなんだかすごい人であることはわかります。
自分でもみんなから慕われていると言っています。プレイヤーは、博士なんだからすごい存在だろうと思いますし、人間は肩書きを持っている人の言うことには寛容になります。よくわからない人に何か説明されても『ふーん。で、あなたは誰なの?』となりますが、なんだかすごい人の言うことなら説得力を感じますよね。
このように、この人になら説明されてもいいと思えるようなすごい存在を作り、その人から説明をすることも大事なテクニックです。博士からの説明は雰囲気が出ます。自分がそんなすごい人からポケモンをもらって大役を任されたのだ、という特別感を味わわせることもできるので、こういう存在を作っておくことは大事です。
ライバル
ポケモンのライバルは常に自分より一歩先を進む存在です。プレイヤーがやるべきことを示しつつ、負けず嫌いを刺激してプレイヤーのモチベーションを上げてくれます。同じ目的に向かって進んでいく競争相手から、今後自分が辿る道について少しだけネタバレされることはある程度受け入れられますよね。
ちなみに、ライバルの性格は赤緑の時代とピカブイとではかなり違っていて、嫌みっぽさがなくなりました。この辺りは、今の時代にあわせてより多くの人に受け入れられやすい設定に変化したのかなと思います。
まとめ:チュートリアルを作るのではなく、説明が必要ないようにゲームを作ろう
ゲームの面白さの本質は、プレイヤーの体験にあります。なので、ゲームの要素や仕組みも、プレイヤーが体験しながら理解していけるように作ることが大事です。ポケモンはプレイヤーに何を体験させるかを最優先に考えて作りこまれているタイトルなので、説明を説明だと認識させないこと、プレイヤーの気づきによって行動させることがゲーム全編を通じて徹底されています。
チュートリアルってこんなに無くせるんだ!と感動すること間違いなし。
ポケモンをやったことがない方がいたら、是非、冒頭30分だけでも触ってみることをおすすめします。たくさんありすぎて何を遊べばいいのかわからん!!という方は、とりあえず『ポケットモンスター Let’s Go!ピカチュウ』を触っておけば良いです。理由は初代ポケットモンスターのリメイクだからです。
赤緑の頃のポケモンとほぼ同じ体験ができるので、田尻智さんをはじめゲームフリークの開発陣のすごさが伝わってくると思います。